必要な芸当。

たつきほど前のことだろうか。
ある仕事の関係で有名人100人を選出し、彼らの事務所にオファーしながら
企業にある企画をプレゼンテーションしなければならないことがあった。
専門分野を問わず男女合計100人候補を挙げ、クライアントに交渉しなくては
ならないのだが、そのなかに私は奥田民生さんを入れていた。
本人に会ったことはないので、彼がどんな人なのか全く知らないけれど、
誰もが知っているミュージシャンのなかでは、妙に説得力がある人だなあ
と私は感じていた。
本質を掴むのに長けているというか、創ることに対する理解が深いというか。
時間に追われる音楽業界にありながら、のらりくらりとしたスタンスに見える
のもアンチっぽく見えて良い。(当人はそのつもりはないかもしれないけれど)


特別ファンではないが、魅力があるのは充分わかっていたし、
仮にこの仕事を頼んでもそれなりのものを出してくれるだろうと思った。
そこで私は彼を候補に入れ、電話でオファーした。
断られるだろうなと思っていたが、案の定断られた。


マネージャーHさん曰く「荷が重い」と。


たった5つのことばで断られたのは初めてだった。
マネージャーのHさんと電話越しに声を出して笑う。
端的で彼らしい反応。断られて気持ちがいいとさえ感じてしまう。
さすが奥田民生、旨い。


大半の事務所はだいたい「スケジュールが…」、「そういう売り方をしていないので…」、
などとそれっぽい、常套句を言う。
しかし彼は一味違った。
相手を笑わせつつ、くどくなく、なおかつこちらに突っ込めるスキを与えない。
その芸当に感心した。彼はきっとサラリーマンになっても、いい業績を残すであろう。
こういう賢さって大事だもんな。


それから私は妙に「荷が重い」が気に入り、一時口癖のように使っていた。


その奥田さん、とある雑誌に「人間があまり好きではない」と書いていた。
会話に彼のような芸当を見せることができることができる人でも、
人間嫌いになるものなのかと思った。


かくいう私は人間嫌いだけどね、なんて書くとまた[KU-KI]のToshiくんに
叱られるだろうか。
そんなことないでしょう!って。
彼もおもしろいなあ。言うべきことは言いながら、丁重なんだもの(笑)。
まあそこが彼のすごいところだけど。