諸刃の剣。

昨年末から出版社に行くことが多くなった。企画案を出したり、知人に会うことになったりで、
ここ1〜2ケ月はよく足を運んでいる。
私は広告畑の人間だから、メーカーとごく一部の代理店(とはいえ、ほとんどつきあいないが)
ばかり仕事をしてきた。代理店とつきあいがないのは、だいたいメーカー直の仕事ばかりだった
からだ。
そんな私だから、出版社に行くことなどほとんどなかった。しかし打ち合わせをしてみると
何ら広告のときの仕事と変わらない。基本的に請負業であり、文章を書く仕事だから変わるはず
がないのだ。(まあ文体は違うけどな)
思えばクライアントに出版社はあったのだ。広告だったからクライアントは編集部ではなく、
宣伝部だったけれども。
現在、そのクライアントとは仕事をしてはいないが、当時はとても可愛がっていただいたと
思っている。
感謝の気持ちを込めて未だに年賀状を書き続けているが、今年はそのクライアントから
一葉の年賀状をいただいた。なんだかそれがとてもうれしく思えた。

昨年末編集の仕事で多忙を極めるなか、二社ほど出版社を訪ねる機会があった。
両社とも想像していた雰囲気とかけ離れている。もう少し儲かっているかと
思いきや、どうやら現実は想像以上に厳しいらしい。
新しい社屋を構えるという出版社などない、というのが現実なのだろうか。
何しろ出版社事情に疎いので、よくわからないが。


一社目は、それでもわりとキレイなオフィスだった。こちらの想像では最新鋭の
設備を施し、美観的にも優れたものを思い浮かべていたのだが。
打ち合わせをした担当者の名刺には、肩書きがたくさんついていた。
雑誌の編集長をいくつか兼任しているらしい。このことからも、台所事情が
厳しいのだということが見てとれた。
しかもその担当者は、憔悴しきっていた。こちらを一瞥することさえない。
小柄で細い身体が、余計弱々しく感じられた。


二社目は、副編集長と打ち合わせをする予定だったのだが、編集長もいっしょ
だった。二人ともとてもクレバーな雰囲気で、話す内容も的確。
ただ、編集長は雰囲気に似合わないことばをたったひとつ吐いた。
決して汚いことばではないのだが、とても意外なことばだったのだ。
打ち合わせの一言より、むしろそちらのことばのほうが私には強烈。
そこに彼の人格を見てしまった気にもなってしまう。


初顔合わせだから、雰囲気にそぐわないと余計印象に残るのであろう。
もちろん人によってはそれを意にも介さない人もいるに違いない。
ことばは、受け取る人間によっていろんなイメージを抱いてしまう。
いわば諸刃の剣である。


まあ人のフリ見て、我がフリ直せってことかな。