紹介。

私が幼い頃住んでいた家は持ち家だったが、とても古く狭かった。
たった2部屋しかなく、お風呂もなかったのだ。
それで母が弟と私を大きな乳母車に乗せて、近くの銭湯まで連れて行く。
乳母車の心地よい揺れと景色が動く楽しさ。それが幼い私には、とても楽しいことのように思えた。
道すがらの電柱には、裸電球。闇に浮かぶ小さな薄明かりが、未だに忘れられない。

そんな小さな家にもかかわらず、祖父母が私に雛人形を買ってくれた。
7段飾りなのだが飾るスペースがなく、お内裏様とお雛様しか飾られることがなかったのだ。

私が小学校5年生になったとき、その家は2階屋に立て直される。
そこで初めて私の雛人形は、全貌を現すのだ。10年近く日の目を浴びることのなかった雛人形。
あれは本当にうれしかった。

その家も今は、貸家にしてしまった。
そこから少しばかり離れたところに、新たに家を建てたのだ。

私が上京してからは、雛人形のことを母に訊いたことはない。
お内裏様とお雛様、そして五人囃子は、どうしているのだろう。
薄暗い倉庫で眠っているのだろうか。


サイトを制作しているベンチャー企業と、渋谷で打ち合わせ。
音楽機材を販売するコンテンツがあるのだが、そのなかで企画を練ってほしいとの
相談があった。


音楽制作をしている人に登場してもらおうという話も出たのだが、
予算がないので、プロはシンドイという。
となれば、アマチュア
マチュアで音楽を制作している人は、残念ながら私のまわりには
いない。


しばらく考えても、結局誰も出てこなかった。
私の周りはみな、いつの間にかプロになる。
よくよく考えると、とても不思議なことだ。


媒体を扱う仕事で非常に困るのが、人を紹介してくれ、と言われること。
これはとても難しい。
クライアントの要望だから、こちらも人を集めたい。
そのために親しい人のなかで登場したいという人がいると、優先的にお願いする。
ただ推薦はするのだが、決定権はあくまでもクライアントが持っているので、
意に添わぬ結果になることも多い。
クライアントと知人/友人の間に挟まれるのは、結構辛い。
大事にしたい仲間ほど、紹介することをひと呼吸置いて考えなくては…と
思うようになった。


やはり信頼関係は大切だから。